魔法先生ネギま! SS作品 「ファッション」 ―エヴァvs.千雨―

 夏休みなど暇を持て余すだけだったが、最近ではこの別荘も賑やかになったものだ。
 表のぼーやと刹那の組み手を見ながらあくび一つで目を瞑ろうとした時、

「おい吸血鬼」

 と、不愉快な呼ばれ方をした。
 不本意だが、顔をあげると、ぼーやの連れ人、クラスメイトの長谷川千雨が私を見下ろしていた。
 忌ま忌ましい。人間の分際で私を見下ろすなどはらわたが煮えくり返るわ。
 無視するように視線を戻すと「おい」と執拗に纏わり付いて来る。

「なんだ? 貴様のような下等生物と交わす言葉など持ち合わせていない」

「ひでえ、言いようだな。あんたが無くても私があるんだよ」

 珍しい。こいつは私やぼーやのような存在を否定し、関わりを持ちたくないと思っていたはずだ。
 やはり、あの学園祭騒動で、私たちの偉大な存在に敬意を表すようになったか。

「何用だ?」

 まあいい。聞くだけ聞いてやろう。

「あんたさ……その、なんだ」

 なんだ、歯切れの悪いやつだな。

「言いたいことがあるならはっきり言え。氷付けと即死どっちが好みだ?」

「なんだよその絶望的な二択は! こちとら普通の人間なんだよ」

 いちいちうるさいやつだな。

「では、はっきり言え」

「……あんた、神楽坂とかに渡したような……ああいう服、何処で買ってんだ?」

 服? ああ、ゴスロリ系か。

「作らせている」

「誰にだ!?」

 ……なんか食いついてきたぞ。

「茶々丸とか姉とか。なんだ、ほしいのか?」

「いや、なんて言うかだな、参考までにというか、なかなか良いセンスしてんじゃねーかと思ってだな、それに私が――」

「ほしいかほしくないのかを聞いている。それとも死ぬか?」

「ことあることに私を殺そうとするな! あー、わかったよ、私もああいった服には一家言あってだな、ちょっと興味があったんだよ」

 ふむ、私のセンスについてくるとは、なかなか見応えのあるやつだ。そういえば、今着ている私服もそれとなく狙った感じがある。

「ほほう、貴様もそういった衣類に関心があるか」

「レイヤーとしては手を出したいジャンルだ。これを期にネトア界の、いや、世界中の電波ジャックをして……ふふふ」

 闇に満ちた良い笑みだ。ずる賢く己の野望を果たす、そういった表情だ。

「その胸の闇、私には心地好いぞ。私もぼーやの相手ばかりで少し気晴らしがほしかったところだ。ついて来い」

 立ち上がり、別荘内に足を運んだ。

 いくつか並ぶ扉を抜け、目的の部屋の扉を開けた。

「ここだ」

 部屋には、私のコレクションと言っても過言ではない衣服が収納されている。

「おおー! なんじゃこの量は!」

 部屋に入るや否や、耳元で奇声をあげられる。

「好きなのを選べ。サイズはよりどりだ。ああ、私のお気に入りはダメだ。ペアなどキモいだけだからな」

 私が話していたというのに、まったく聞いていなかった。
 まるでガキが玩具箱を見るような目だ。

「迷うぜ、これはよお!」

 駆け出した。誰も取らないというのにまったく。

「このフリルは領域計算のしがいがあるぜ……おっ、このゴスパンいいなぁ。あれ、よく見るとクロスが一着もねえなあ」

「十字架など見るだけで吐き気がするというのに、身につけるなど以っての外だ」

「そういやあ、吸血鬼だったな」

 最初にそう呼んだくせに、興奮してそんな単純なことを忘れるとは。

「それに私は柄物は好きじゃない。髑髏やら鎖やらは見飽きた。ここにあるのはコレクションとしての所持だ」

「そーかい。しっかし、これだけあると流石に悩むな」

 優柔不断なやつだ。

「ならば私が仕立ててやろうか? 貴様のどす黒い心中のように漆黒より黒い闇をモチーフにして」

「あんたが言うとこええよ」

 黒とか闇という暗色をイメージすると顔が緩んでしまう。これも真祖故の悪の部分か。

「――まあ、それも一つの手か。吸血鬼に服を選んでもらうなんて機会、そうはねえからな、せっかくだから任せてみるわ」

 自己中心なやつかと思ったが、托す時は托すらしい。
 部屋を見渡し、目についた服を放り投げていく。
 Vネックインナー、ボレロ、フレアスカート、ケープ、締めにサンシェイド。どれも我ながら見事な黒だ。

「真っ黒だな」

「ああ、真っ黒だ。ソックスとアクセは自分でどうにかしろ」

 領域がなんたら言っていたし、私の所持するアクセは魔力増幅の術が施されているので、こいつにやるのは惜しい。

「面白そうな組み合わせを選んでくれるわ。私ならこの組み合わせはありえねえよ」

「当たり前だ。私のセンスを貴様と同列で考えるな。ポイントはボレロの短さと対象に羽織るケープの着こなしだ。それがどう化けるかは貴様次第だがな」

 背丈といい、身体の発達といい、どうもあのクラスは差が激しい。
 こいつはどちらかといえばマシなほうだろう。故に衣服の着用にもレパートリーが増える。

「おうよ。ネトア界の星を舐めんじゃねえよ。写真の編集は誰にも負けん」

 自らの容姿に自信があるわけではないらしい。
 しかし、機械のことは良くわからんが、あのハカセと茶々丸が一目置く存在だ。こいつもそれなりの知識があるのだろう。学園祭ではぼーやと仮契約したとはいえ、超とハカセが作り出した結界を茶々丸のガードをかい潜り打破したと聞く。そんなことが出来るならば、自身の写真を加工するなど朝飯前だろう。

「大層な自信だな。表の顔は貧相でも、仮想世界ならアイドル気取りか。まあそれも良かろう。精々現実から目を反らした世界で快楽を楽しむがいい」

「ふん。私からしたら、ガキが先生になったり、クラスメイトにロボがいたり、吸血鬼がいたり、大半が魔法使いやら人外染みた武道派集団なんてのを見ていたら、現実なんてなんでも有りに見えちまうんだよ。それなら、クーラーの効いた部屋でネット三昧のいち中学生が実はネットアイドルだったってほうがよっぽど現実的だぜ」

 私からしたら、私たち魔法使いがいることが当たり前なのだが、平凡な人間からしてみたら、それは現実から掛け離れているという認識に至るのか。まあしかし、魔法使いとて、その存在がバレると小動物にさせられる。
 結局、魔法使いという立場は肩身が狭い存在で、現実的ではないということか。
 舌打ち一回で嫌気を晒す。
 誰もかしこもまったくもって思想、器が小さい。
 自信の存在を表向きに出せないというのは、何年立ってももどかしいものだ。
 それでも、ぼーやを筆頭にやつらがここにこうやっていることで、私の本来の姿が認識されたわけで、変哲もない中学生を装うより幾分かはマシな生活になった。

「ふん。そこにあるもの、いるもの。貴様がその目で見ているもの。それが総て現実だ。さて、そろそろ修業を再開させるか。私も久しぶりに暴れたくなった。貴様が架空の存在と思っていた人外がどれほどか、其の目に焼き付けるが良いさ」

「言うじゃねーか。まっ、服の礼だ。あんたの存在、しっかり私の現実に入れておいてやるぜ」

 ふん。大事そうに人の服を抱えながら偉そうなやつだ。

 まあいい。さて、今日はどうやってやつらを苛めてやろうか。



あとがきは続きに
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魔法先生ネギま! SS作品 「友達」 ―さよ―

「はあー」
 相坂さよは夕方のコンビニ入り口でため息を吐いた。
 幽霊である彼女は六十年間、退屈な日々を繰り返してきた。
「夏休みは暇ですねー」
 誰に言うわけでもなく、呟く。
 彼女にとって夏休みもまた同じ日々。誰にも見えず、ただただひっそりとそこにいるだけだった。
 でも今は違う。
「今年は楽しく過ごせそうですけどね」
 クラスメイトの顔を思い出す。
「やっぱり暇だなー。クラスメイトの誰か来ないかなー……!!」
 ザジ・レイニーデイ。クラスメイトの一人で、さよの姿が見える数少ない一人だ。
「……」
 サジがさよを凝視する
「あ、あの、どうぞお座りになりますか?」
 その言葉にザジは首を縦に揺らす。
 ザジとその場に腰を下ろす。
なぞの生物が数体さよを囲んだ。
「あっ、あのー……」
 さよは、恐る恐る話しかけてみる。
 ザジは何処からとも無く、ペットボトルを数本出してから無言でさよのほうを向く。
「ひぃいい」
 急に出てきたペットボトルに驚くさよ。
 そんな姿を無視して、頭上にペットボトルを投げ、お手玉をするかのように簡単にペットボトルを回しだす。
「あっ、あのー……」
 再度声を掛けてみると、手はそのままで前方を直視していた視線だけをさよのほうに向けた。
「この方たちは一体?」
 さよとザジを囲む謎の生態のことを問う。
「…………友達」
「そっ、そうですか」
 さよの体に生態の手が触れる。
「ひゃ!」
 幽霊となって、触られることなどなかったさよにとって、誰か……何かに触れられるという経験はそうそうあることではない。
「…ニクありアルスカ?」
「なっ、ないですぅう!」
 足もないですうと半泣きで答える。
「…………気に入られた」
 前方に視線を戻しながらザジが囁く。
「食べてイイスカ?」
 肉がなくても食べたいらしい。
「ダメ」
 ザジが止めてくれた。
「うう、ザジしゃん」
 感涙が流れる。
 その時、カップルがコンビニに入る。
 ザジはその二人が過ぎると同時に立ち上がり、ペットボトルを一つずつ、コンビニのゴミ箱に入れていく。
「やめちゃうんですか?」
 さよが見上げながら言うと、ザジはこくりと頷いた。
「すごかったですぅ。また見せてくださいぃ」
「…………友達」
「えっ?」
 さよが聞き返すと、ザジは初め自分を指差してから、その指をさよに持っていく。
「……友達……だから……いつでも……」
 どうやら、自分達はもう友達。と言いたいらしい。
「……ザジしゃん」
 無いはずの胸中がジーンと熱くなったさよ。
 思えば六十年間、友達など一人もいなかったのに、今はこうやって自分を見てくれる人が居る。

 誰にも気がつかれず、地味な幽霊として『存在』してきた六十年間。ずっと話し相手がほしかった。
 私を見てくれる人。
 無口な人だけれど、私にも新しい友達が出来ました。
 


「朝倉さん! 危ないです!」
 朝倉が右手に持つのは勢い良く火花を飛ばす手持ち花火。
「大丈夫だって! さよちゃん幽霊だし」
 実体が無いことを良いことに、朝倉はさよの体めがけて花火を向けてくる。
 もちろん熱くは無いのだが、反射として体を宙に浮かせてその場から離れる。
「待て待てー」
 追いかけてくる朝倉。
「朝倉、何やってんの?」
 まき絵が不思議そうに朝倉の姿を目で追う。まき絵にはさよの姿は見えない。
「えへへ」と笑ってごまかす朝倉。
 朝倉の花火攻撃から逃れたさよは体を地上に近づける。
「ひゃ!」
 上体を火花がすり抜けた。慌てて火の起こるほうを確認する。
「…………」
 そこにはあらかじめさよがそこに来るのを予測していたかのように、サジが花火を構えていた。
「危ないですう」
 もう一度体を宙に浮かせる。
「む、上空に逃げたからといい、我が魔眼から逃れられると思うな」
 その場にいたクラスメイト龍宮がさよに向かって、ロケット花火を勢い良く投げつける。
「きゃー」
 花火がその体をすり抜けた。
「龍宮やりすぎ。さよちゃん怖がってるじゃん」
「何を言う、元はと言えば朝倉がはじめたのではないか」
「龍宮がやると花火も武器になっちゃうでしょ」
「火薬の量と術を施せば霊の一体ほどたわいも無い」
 
「…………いじめちゃダメ」
 ザジが龍宮を止めた。
「む、すまん」
 龍宮が複雑そうな顔で呟いた。

 さよは上空から三人を見下ろして、思わず顔が緩んだ。
 
 人に向けてはダメなんですけど、花火って楽しいで――
「ひゃあ!」
 上空を飛ぶさよの隣で花火が光った。

「今の綺麗だったねー」
 どうやらまき絵が飛ばした置き花火だったらしい。

 驚きながらも、さよはもう一度下を見下ろした。

 そこにいるクラスメイトは全員、上空を向き、花火を見上げている。


「なんか皆、私を見ているような気がしますね」

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